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「日本の発酵の特色・並行複発酵-カビと酵母と酵素の関係-で考える」種麹メーカー、糀屋三左衛門(黒判もやし)の村井裕一郎様。noteより。

「日本の発酵の特色・並行複発酵-カビと酵母と酵素の関係-で考える」種麹メーカー、糀屋三左衛門(黒判もやし)の村井裕一郎様。noteより。

「実は味噌も醤油も清酒も製造をシンプルに模式化すると同じ」

いきなりですが、味噌、醤油、清酒などの発酵食品(以降、この記事において発酵食品とはこの3つを指すことにします。)の模式図です。シンプルに書くと、全部同じようになります。

1.原料の一部に麹菌を生やして麹にする

2.麹と他の原料(水とか、塩とか、豆とか、麹にしない米とか)と麹を混ぜて、樽とかタンクとか、家庭だと桶とかに入れる。

3.2で作ったものに酵母菌や乳酸菌が湧いてくる

4.酵母菌や乳酸菌の働きで、アルコールや香りや味の成分が出来る

5.液体物は濾過する(搾るとも言います)

6.完成

です。大きな流れは同じです。結論から行きます。アルコールや香りや味の成分は酵母や乳酸菌が主に行います。さて、ここで、麹菌(麹)はなんの役目をしているのでしょう?

それは、麹菌は、原料を酵母や乳酸菌が食べやすくなるように、酵素を使って小さく切り刻む作業をしています。

「麹菌の役割」

さて、発酵食品の原料、主には米や麦や豆になります。お米やお豆は、デンプンやタンパク質などで作られています。これは小学校の家庭科のはなしですね。

 この、デンプンとかタンパク質、これらは、そのままの状態だと、酵母菌や乳酸菌が食べることが出来ません。微生物のレベルで考えると、非常に巨大な物質になります。そのため、これを細かく切り刻んであげる必要があります。その細かく切り刻む道具が、まさしく酵素なのです。

 思い出してください。お米を噛めば噛むほど甘くなりますよね?それは、唾液の中にあるアミラーゼという酵素が、デンプンという大きな物体を糖という小さな物体に切り刻んでいる現象です。そして、「糖」という小さな物体になったからこそ、人間が吸収できるようになり、また、舌で味を感じられるようになるわけです。(味を感じる場所は小さな物質じゃないと反応できない。)

 デンプンを細かく切り刻むと「糖」に、タンパク質を細かく切り刻むと「アミノ酸」になります。それぞれ「甘味」や「旨味」の元になります。そして、デンプンを細かく切り刻む酵素をアミラーゼ、たんぱく質を細かく切り刻む酵素をプロテアーゼといいます。私は「あまみ」の「あみ」と覚えました。プロテアーゼは、たんぱく質は筋肉の元、「プロテイン」です。

 この切り刻む「酵素」ですが、実は「専用」です。以前の記事で、酵素を「のこぎり」に例えましたが、木材ノコギリで金属が切れなかったり、金属用のノコギリで木材が切れないように、アミラーゼでたんぱく質は切れないし、プロテアーゼでデンプンは切れないです。

 人間の生理作用には何千という酵素が関わってるといわれますが、「全ての酵素は、切り刻める物質が決まっています。」これを「基質特異性」といいます。シンプルに言えば、「酵素の代用は出来ません」。ある酵素が、場合によってアミラーゼの働きをしたり、あるいはプロテアーゼになったり、ということはしないです。

さて、「麹菌」は生育の過程で、この「酵素」を大量に、色んな種類を分泌します。以前、「麹」が工務店、麹菌が「大工さん」、酵素が「のこぎり」と例えましたが、まさに、麹という工務店の中では、麹菌という大工さんが、酵素というのこぎりを、現場(=原材料)にあわせて、せっせと大量に作っています。この酵素というノコギリは、切り刻める物体に出逢うと、ドンドンと切り刻む作業を進めます。つまり、どんどんとデンプンが糖に、たんぱく質がアミノ酸に、その他様々な物質が、どんどん小さな物質になっていくのです。

発酵に話を戻すと、このように、【麹】の中にいる【麹菌】が分泌する【酵素】の力(←敢えて丁寧に書きました)で、酵母や乳酸菌のえさとなる小さな物質が大量に作られているわけですね。

「日本の発酵食品は小さなエコシステム(生態系)」

 ここまでの話を整理すると、日本の発酵食品は微生物的には以下のリレーが行われています。

1.麹菌が原料物質を小さく分解された物質にする。

2.酵母菌と乳酸菌が分解された物質をえさにして、新しい物質を作る。

と、いうことです。そして、この2段階がどちらも『発酵』です。微生物の力によって目的とする物質を作ってるわけですからね。そして、実際にはこの2つはほぼ同時進行で行われていきます。

このように複数の発酵が同時進行で並行して起きること。これを「並行複発酵」といいます。これが日本の発酵食品の最大の特色と言えます。

※酵母と乳酸菌もそれぞれ違う役目と関わり合いがありますが、それは後日の記事に譲ります。

そう、日本の発酵食品は、まさに、その発酵の過程において、食品の中で複数の微生物たちによる小さな生態系をつくっているのです。

「ちょっと話を広げます」

さて、少し話を広げます。私たちは、原料を味噌にすることは出来ません。米と豆と塩と水を混ぜることしか出来ません。原材料を味噌にするのは微生物たちが働かないと出来ません。その微生物たちは小さな生態系を作っています。彼らは「発酵食品」を作っている、とは思っていないでしょう。彼らが働ける生態系を「温度は高すぎないかな?」などと考えて、整えてやることだけが、人間が発酵食品にできることとも言えます。

そう、「働かせる」のではなく「働ける環境を整えて、あとは任せる」、そして、微生物たちが生態系の中で自然に振る舞った成果を「発酵食品」として受け取る。

このようなアプローチを子育てに例えれば、親は子どもが育つより良い環境を用意して整えることしか出来ない、その環境で子どもたちが育つかどうかは、最後には子どもたち自身がどう動くか。

また、企業組織に例えれば、環境を整えるなかで、微生物が個性を発揮するように、会社はそこで働く人の環境を整えること、環境が整うことによって、個性を発揮して行動できるようになる、、

そういう教育やビジネスのアプローチにも繋がっていく話なのかなとおもいます。

「村井裕一郎」
種麹メーカーを経営しています。種麹とは、麹を造る元になる麹菌を商品化したもの。麹や発酵のこと、ビジネスのこと、日常生活のこと、色々こちらに書いていきます。2020年4月より京都芸術大学大学院。 MBA・みそソムリエ・一級ブランドマネージャー・愛知・豊橋・東三河

「株式会社ビオック」 http://www.bioc.co.jp