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小泉武夫著 発酵 ミクロの巨人たちの神秘
発酵 小泉武夫著 ミクロの巨人たちの神秘
「発酵」とは英語で、fermentationである。これはラテン語のfervere から生まれたもので、その意味するところは「湧く」である。おそらく、アルコール発酵の際に生じる炭酸ガスが泡となって盛り上がる現象をさして、こう名付けたのであろう。
だが、発酵とはそんなに簡単なものばかりをさすのではなく、今日では非常に広範囲な微生物の応用を総称した意味に使われている。その今日的発酵を筆者なりに定義すると、
細菌類、酵母類、糸状菌(カビ)、藻菌類などの微生物そのものか、その酵素類が有機物または無機物に作用して、メタンやアルコール、有機酸のような有機化合物を生じたり、炭酸ガスや水素、アンモニア、硫化水素のような無機化合物を生じ、なおかつその現象が人類にとって有益となること
となる。
抗生物質とは、微生物によってつくられる化学物質で、他の微生物の発育または代謝を阻害する物質のことである。二種の微生物を同一培地上に同時に培養した時、一方の微生物の増殖が阻止されることを拮抗現象(antagonism)と呼ぶが、この現象そのものはすでにティンダル(1876年)やパスツール(1877年)などが意識していたといわれている。
1900年代に入ると、この拮抗現象はさらに多くの研究者たちによって明らかにされ、その幾人かは実際にこの拮抗作用を示す物質を抽出している。たとえば日本の斎藤賢道は1907年(明治40年)、わが国の麹菌がブドウ状球菌や結核菌などの細菌や特定のカビの育成を阻止する物質を生産することをつきとめ、これの抽出に成功している。またその物質の構造は、1912年に、薮田貞治郎が決定して、これを麹酸と名付けた。
麹カビ(アスペルギルス)属
A.オリゼーは黄麹菌といわれ、日本の代表的有用麹カビである。日本酒、米酢、味噌、味醂、甘酒などの醸造に古くから利用され、原料中のデンプンを糖化してブドウ糖にするアミラーゼ(デンプン分解酵素)の力が非常に強い。